フランス庶民にとっての、劇場に足を運ぶという日常。

舞台を見にいくのはそんなに好きじゃない。見にいく時間に自分で何か作ったり、親友と酒を飲みながら話してるか、寝るほうがおもしろいと思うからである。

特に日本でプロを名乗ってる人たちがやってる舞台には絶望ばかりしてきたから、一部の演者のそれ以外には、あんなに高い金を出して見にいくことはもうないだろうと思う。

そんなキツイこと言わず、せっかくフランスに来たのだからと晴れやかな気持ちで、こっちではもう4つも作品を見た。たった3週間でこの数だから、私にとっては胃もたれするほどの量だ。

内容は、簡単に分類してしまえばストリップショーとコンテンポラリーダンス。ストリップショー以外の3つは、踊りを長年やっている側からしても内容的になかなかに難しいものだった。

ただ、タイトルは非常に簡潔。

コンパクト(Compact)。 ヴァーティカル(Vertical)。 おまかせ(フランス語でなんて書いてあったか忘れた)。

おもしろいことに、フランス人の演出家はタイトルに挙げたコンセプトを体現しようと徹底的にトライし続ける。短いもので20分、長いものだと90分もある。しつこいほどに、だ。

例えば「コンパクト」なら、人と人がくっついて20分間ずっと離れない。 「ヴァーティカル」なら、命綱のようなものをつけて垂直方向の動きを続ける。 「おまかせ」なら、観客にマイクを持たせて振付の指示をさせ、演者がそれを指示通りこなし続ける。

とにかく執拗なのだ。

そこにエンターテイメントの要素はほぼほぼ無いと言える。普通のダンスショーなら、ここが盛り上げどこで、ここは静まり返るところだってのがはっきりあるんだけど、こっちのショー(少なくとも自分がみた作品)にはそれが無い。

日本人の感覚からすると、わがままにもほどがあるほど、彼らはわがままだった。

ただその演出的なわがままよりも私を驚かせたのは、見に来たお客さんのほう。確実に踊りをやっていない、いわゆる庶民がぞろぞろと「コンテンポラリーダンス」を見に来ているのだ。

もちろんそこにジャニーズJr、EXILE、安室奈美恵みたいな有名人はいなくて。まるで映画館に行くような感覚で庶民が踊りを見に来るのだ。

静かに、それでいて楽しそうに、カップル、友達、家族づれ、おじいちゃんおばあちゃん、小さな子供が、踊りをやっている人間にとっても難解な「ダンス」を見に来ている。ショーが終わると大きな拍手を数分間も続ける。

私はこのフランス人の芸術に触れる姿勢に対して、毎度感銘を受けた。

聞くところによると、舞台を見に行くために使える年パス的なものがあったり、そもそも舞台の値段が安かったり、劇場の数が多かったりとさまざまな要因がある。

そんな要因があるにせよ、庶民の芸術に対する考え方や向き合い方の違いをはっきりと肌で感じ取ることができた。

ただこの記事で、日本人が近場でやってるような舞台を見にいく機会がないことに対して非難するつもりはない。精神的な豊かさよりも、金銭的な損得が重要な尺度になってしまっている狂ったテレビ、舞台、広告がはびこってる。

そんな環境で本当に文化的でおもしろいものを探すことの方がはるかに難しいと思うから。その環境に生きてこのかた身を置いている自分も、絶対に何かしらの影響を受けているのだろう。

海外にきて毎度思うのは、本当の意味で好きな日本を客観視できることだ。フランスを賞賛したいわけじゃない。何せ実験的なショーとそれを受け入れるだけの寛容な客がいるこの環境。エンタメ的な感覚がほぼほぼないから、ショーを見ててつまらなくなって眠たくなる場面も多々ある。その点は日本の方がはるかによく考えられているしおもしろい。

ただこの大きな姿勢の違いを、まだ新鮮な感覚があるうちに残しておきたいと思って。

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