ひとつまみの狂気。

フランスのおっさんのファッションの「ワンアクセント」がいいなって、着いてすぐ思った。

日本だと灰色、黒、白みたいにモノトーンでスーツや私服を着るおっちゃんが多いけど、フランスのおっさんには、ベルトやスカーフ、中にちらつかせるシャツや靴下なんかにおもしろい色が入る。

もちろん皆が皆、そんな洒落たことをするわけじゃないけど、そういう傾向にある。モノトーンで着れば無難にまとまるところを、あえてはずすというか。いい意味でひねくれてる。

日本語に「かわいい」って言葉がある。これを言うとよくフランス人がこれまた「かわいい」感じで言い返してくる。この言葉、耳に特殊な振動を与えるんだろうな。

私も「かわいい」って言葉は、日本独特の感覚が混じっていると思っている。それは「キュートだ」「チャーミングだ」と言いたい時にも使うが、「粋だね」「洒落てるね」とかそういう意味にも使える(と個人的には思っている)。場面次第では皮肉めいた使い方も。

「かわいい」って言葉を女性に対して使うと本当に照れくさい感じになってしまうし、当たり前に可愛い小さな子供に対して「かわいい」なんて言うのは物足りないと感じていたから、普段は皮肉めいた使い方でしか使わないようにしていた。

フランスでの2ヶ月間は「粋だね」「チャーミングだね」「洒落てるね」って意味合いを込めて呟くことが多かった。説明できないんだけど、なぜかこちらではその表現がしっくりきた。

おっさんのファッションだけじゃない。

例えば飲食店の店員も、ただ「いらっしゃいませ」と言ってオーダーをとるんじゃなくて。若いウェイトレスがこちらによってきて「そのカバン、色使いとサイズ感がとても素敵ね。フランスの有名なブランドだけど知ってて買ったの?」と、一人の客を一人の男としてみてしっかり興味を示す。ひとしきり喋ったあとでようやく「飲み物どうする? ワインならこれがおすすめよ」と自然な笑顔でオーダーをとる。

「マニュアルにないことを自然にやる」と言うべきか「カジュアルにはずす」と言うべきか。これこそ、この国の特徴だと感じた。素晴らしい絵画やファッションブランド、建築が街中に当たり前に存在しているのも、なんだかうなづける気がした。

わたし自身、踊ったり絵を描いたりするわけだが、思い出してみればそう言う「はずし」のあるものはだいたい良い。自分のやったことに対して「かわいい」を見つけることができるってことだ。

でも「自然にはずす」「かわいさを出す」って、心の余裕がある時にできることだなって思う。

フランスの人たちはよくわたしに「Take your time.」って言う。「急がなくていいよ、ゆっくりね。」って意味みたい。

日本人のわたしは、彼らからするとせわしなく見えるようで。

わたしからすると彼らはゆっくりしすぎなんだけど、そういうところももはや「かわいい」である。

何が言いたいって、彼らは異常なほどマイペースで、ゆっくり動く人間だってこと。でもそのおかげで、いつも心にゆとりがあって、その時目の前で起こっていることに大切にすることができる人が多い。レストランでスマホ見ながらご飯を食べている人を見ない。今目の前にいる人との食事と会話をゆっくりと楽しんでいる。道も丁寧に譲るし、店が混んでいても店員はゆっくり丁寧にエスコートしてくれる。ゆっくりしてるぶん、オーダーを取るまでの待ち時間は結構長いんだけどね。

この記事タイトルは「ひとつまみの狂気」。「狂気」ってちょっと野蛮な、くるったような印象の言葉だけど、わたしは「狂気」=「かわいさ」だと思う。そしてそれが、ひとつまみ、自然でさりげなく感じられることに対してわたしは「美しい」と言ったりする。

全部がぜんぶ狂っていたり、全身レインボーカラーの服だと見るに耐えないだろうからね。

わたしはこのことの重要性をぼんやりと理解していたが、こっちに来ていろんな場面に出くわしてはっきりと認識した。

夜にぬくぬくと暖かい場所で安心しきっているときに、水を思いっきりぶっかけられるというかわいさなんかも。

ハハ、これ以上はNGだからやめておこう。

次回は「粗悪の魅力」についてでも書こうかな。忘れてなければね。

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